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受け手と配信者が求めるもの 取材記者が捨てられないもの
書店の転業廃業が止まらないとの報道を見た。出版社、取次、書店の旧来の流通形態は瓦解の一途をたどっている。定価販売、委託販売の上に、関わるみんながあぐらをかき、自らの変化の必要性に鈍感だったことを自省しなければならない。取次は書店の信用保証の役割も果たしてきたが、書店の業績悪化により、売掛け金の回収率も下がる傾向にあると聞く。
かく言う私も前年度は取次の破綻により、売掛け金焦げ付きの憂き目に2度見舞われた。零細書店がそうであるように、部数減少と後継者不在により、零細出版社もまた苦しい状況にあることは否定できない。
閑話休題。
過日、ウエブの運営をしている方やら、システムを構築されている方と話す機会があった。また、昨日は取次や印刷関係者とも話した。そこでのみなさんの考えに共通している見方に気がついた。
紙媒体は今年上半期も、酷いと言われた昨年以上に部数減少が続いている。クルマ関連誌は全体よりもさらに数字は悪いと言う。
一方で、ウエブのプラットフォームは雨後の筍のように数が増えている。多くは収益を広告に求めるモデルだ。
月額固定制のコンテンツ読み放題なども、読者に人気だ。会費収入から得られる収益はコンテンツプラットフォームが半分ほど頭ハネし、残りを閲覧シェアなりに分割するのが一般的。が、この仕組みだとどうしても人気が偏りがちになる。人気の圏外にあるコンテンツの分け前は自ずと限られてくる。せっかく良質なコンテンツを提供しようとしても、世の中から話題性を勝ち取れなければ、収益が得られない。
各々のコンテンツプラットフォームは、他のプラットフォームとの差別化を狙って、人気のあるコンテンツを探す。ここでも広告獲得が狙いだと、アクセス数が重要になるから、「キャッチーで読むのに時間のかからない」コンテンツが好まれる。
紙媒体なら1000字書くところを、ウエブだとエッセンスだけ200字で書くといった具合だ。で、プラットフォームからは字数なりの原稿料を提示される。雑誌屋の特性として、ひとつのテーマをじっくり追いかけ、現地現物で取材を積み重ねて、記者なりの真実を追いかける作業を長年やってきた。が、この手法は少なくとも生産性の観点からは非常に効率が悪い。真実に真っ直ぐ行き着くことはマレ。回り道は普通だが、真実と思った先が行き止まりだったりして、取材がふり出しに戻ることもしばしばだ。
で、ようやく記事ネタをモノにして、媒体に記事を掲載することになる。この時、ウエブのプラットフォームから文字数でギャラを評価されてしまうと、儲けはおろか、正直、費やしたコストさえ出ない。
今のこうした風潮では、埋もれた事実を掘り出すようなテマのかかる調査報道はやりにくい。「現象を早いスピードで短く読ませる」、これに合った仕事のやり方じゃないと記者は生活もままならない。
自分もその陥穽に陥りがちだが、そうなると取材がし易く、検証作業を端折っても間違いが少なく、さらに取材相手から訝られる心配のない、テマのかからない記事素材を優先してしまう。
情報を出したい勢力の情報を鵜呑みにして、そこに書き手のバイアスをかませることもしない記事が氾濫する所以だ。
記者はそうなりたくないと思って、ここまでやって来たが、やはり時勢には勝てないのかなぁ。
マガジンX編集長/神領 貢
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