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「モード燃費のワナ」

2016.7.7

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さかのぼること2カ月あまり、4月20日の17時に国交省で三菱自動車(以下、三菱)の緊急会見が行われた。そう、同社が生産し、日産と三菱の両ブランドで発売している軽自動車4車種について、燃費データの不正が発覚したのだ。その後の社内調査、国の調査により、同社のほぼ全製品で何らかの違法な燃費不正が行われていたことも白日の下にさらされた。

三菱と言えば、2000年頃に明らかになった乗用車とトラック・バスのリコール隠しに始まり、2004年にはハブの強度不足を長らく隠蔽していた事実もあからさまになった。2002年にトレーラーから外れたタイヤホイールが母子を直撃した死傷事件は未だ記憶に残る。さらに2012年には軽自動車エンジンのシリンダーオイル漏れのリコール隠しもあった。そして今回、2016年の燃費データ改ざんである。

三菱のある関係者が自嘲気味に言う。「ウチはオリンピックの年に必ず何か起きる。2008年のリーマンショックを加えると何もない年がない。今回をもう最後にしたい」は本音だろう。

昨年秋に欧米市場で不正が明らかになったフォルクスワーゲン(以下、VW)によるディーゼル車の燃費試験不正は、先頃、VWがアメリカ政府に日本円で約1.5兆円という過去最大規模の和解金を支払うことで当面の決着をみた。モード燃費測定時に触媒による浄化力を高め、一般走行時には浄化力を弱めるプログラムを搭載していた手口が問題とされたが、あまりにも大きな代償だ。

次にスズキである。三菱の燃費不正に関連して国交省が他社への社内調査を要請したところ、スズキも国が定める走行抵抗値の測定方法と異なる手法で抵抗値を測定、軽自動車だけでなく、登録車でも不正がみつかった。

このように矢継ぎ早に国内外各社の燃費に関する不正事案があからさまになっている。背景には、自動車メーカーが消費者に自社のクルマを訴求するポイントして、かつての走りの性能や居住性の高さから、最近は燃費の良さや安全性能、自動化技術の有無に焦点が移りつつあることが挙げられる。

とくに燃費は数字がはっきり出るだけに一般ユーザーにも分かりやすい。「リッター○○kmの高い燃費性能」は一目でユーザーを引きつける。

が、間違ってはならないのが、公表されている燃費はあくまでも「モード燃費」である。ある走行条件下で、エコランに優れたプロドライバーが目一杯頑張ってたたき出した数字なのだ。

国は「トップランナー方式」と言って、最も優れた排ガス性能、燃費性能を持つクルマを目標に国内メーカー各社がその数値に追いつき追い越せるよう技術革新を求めてきた。そのインセンティブとしてエコカー減税などの優遇策を実施。ユーザーには購入負担軽減という購入の動機づけとなっている。これがメーカー間の過度な競争に結びついたのではないかと指摘するムキもある。

ドライバーの皆様が一番感じているように、カタログに記載されているモード燃費で実際に走るのは至難の業だ。国は来年度にも国連による新しいモード燃費(WLTP=乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法)の新型車からの導入を計画している。

実態と乖離したモード燃費にあまり一喜一憂せず、クルマのあらゆる性能をよくよく吟味して、カーライフをともにするパートナー選びをしたいものである。

 

神領 貢/ニューモデルマガジンX編集長