愛知県豊田市トヨタ町。最近、竣工した真新しい建物の一室で交わされていた会話の一部始終が聞こえた―
「先輩、今月のマガジンX、もう見ましたぁ?」
「いや、まだだ。今月は何か気になる他社のクルマは載ってるのか」
「これですよ、これ」
「どれ?おっ、次のスカイラインか。もうスクープしてるのか、相変わらず早ぇなぁ。でも、何だか変わり映えしねぇなぁ。これ、ホントに次期モデルかよ?」
「なに言ってるんですか。よ〜く見て下さいよ」
「見てるよ!FMパッケージ特有の長いノーズだろ、逆スラントしたリアドアの開口線、それに斜めにカットされたコンビランプの輪郭線。どう見ても現行モデルじゃないか」
「そういうディテールを観察するのも結構ですけど、私たち、デザイナーなんですから、もっとマクロな見方をしましょうよ」
「例えば?」
「フロントのホイールアーチから始まってるキャラクターライン。ボディ側面の写り込みから推測するとですよ、ドアハンドルの下を通って後ろ上がりにひかれてますよね」
「ふんふん。で?」
「ここからがミソなんですよ。リアのホイールハウスと同じ曲率で弧を描いてるじゃないですか。これこそ、現行モデルがデザインされた時とは違う環境下で開発されたことを示してる端的な証拠ですよ。マーチとかムラーノにも同じ処理がありましたよね?多分、史郎さん(=中村デザイン本部長)のアドバイスが生きてるんじゃないですか」
「なるほどね。オマエもデザインを見抜く力が伸びたなぁ(感慨)」
「そんなことよりもディメンションなんですけど、全長と全幅は現行と変わりなく、それぞれ4675mm、1750mmのままみたいです。ただ、全高は20mm下がって1450mmになるそうです。ホイールベースは・・・2850mmのままですね」
「もう、そこまでつかんでるのか」
「まだ載ってますよ。エンジンは現行と同じVQ型の3.5リットルと3リットル。2.5リットルも残るみたいで・・・」
「なんだ。じゃあ、中身はたいして進歩しないってことか」
「いやいや、最後まで話を聞いて下さいよ。HICASって覚えてます?」
「あぁ、あのリアタイヤが操舵する仕掛けだろ?」
「そうです。あれの進化版みたいな機構が備わるらしいですよ」
「じゃあ、運動性能も高まるってことか」
「はい、そのとおりです」
「現行はおとなしいイメージがついちゃって、名前負けしてる感があったモンな。それに比べると、随分とスポーティになるってことだな」
「そうですね。手ごわさは現行以上ですよ」
「大丈夫さ。ウチの960N(=次期マーク2の開発コード)の変貌ぶりにはインパクトもあるし、デザインの質も高い。よし、このスカイラインに負けないクルマを造らなきゃな。じゃあ、そろそろ仕事に戻って、あのクレイモデルを仕上げるか」
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