スクープ
2004年 1月

MPC トヨタ
ist手がけた奥平CE(チーフエンジニア)の自信作
デザイン検討案まさかの流出

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デザイン検討の際に提案されたMPCの外観フォルムのひとつ。社内コンペでは5拠点から案が提出されたが、スクープ班がキャッチした上の写真は本社デザイン案との見方が強い。

 トヨタがコラボして新型車開発を行っているのはPSAだけじゃない。国内のグループ企業で、軽自動車やコンパクトカーなど、その“マジメぶり”で評価を得ているダイハツとも手を組み、先ごろ共同開発車「アバンザ(ダイハツ名セニア)」をインドネシアで発売したほか、ヴィッツより小ぶりのスモールカー「MPC(Mom’s Prime Compact)」も開発中だ。国産登録車のなかで最短の全長を持つコンパクトカーとして開発が始まり、トヨタ社内では840N、ダイハツではD71の開発コードがそれぞれ与えられた。その後、トヨタでの先行開発が終わるとともにコードナンバーは970Nに改定された。

 本誌は1年以上も前の03年1月号でトヨタとダイハツの共同プロジェクトを初スクープしたが、今回はデザイン検討で社内提案された案のひとつをスッパ抜くことに成功。

 MPCのデザインは、愛知県の本社デザイン部、東京デザインスタジオ、欧州にあるデザイン拠点のEDスクエア、北米のCALTY、そして国内の社外デザイン開発スタジオの5拠点によるコンペで競われた。今回スクープ班がつかんだのは、その中のひとつだ。ちなみに、トヨタ本社のデザイン部には、巨費を投じて「立体視装置」や天井開閉式の「検討場」を持つデザイン館が完成したばかり。MPCは新設備評価の“第1号”になったのだろうか。

 これまでにスクープしたとおり、MPCのサイズは全長3580mm×全幅1660mm×全高1535mm。現行ヴィッツと比べて全幅は同じだが、全長は60mm短く、逆に全高は35mm高い。ファミリーユース、とくに子連れのママなどにも使いやすいよう、5ドアHBボディが与えられて広いドア開口部も確保。さらに、フロントノーズは短くて水平基調という車両感覚がつかみやすいデザインにまとまる。同じスモールカーでもデザインを重視したマーチなどと異なり、エントリーユーザーやペーパードライバーにも乗りやすく、そして使いやすいよう、デザインからユーティリティにまで徹底したこだわりが見られる。

 ホイールベースはヴィッツより70mm長い2440mmに達する。おかげで、前後ヒップポイントの間隔はフィットをしのぐ865mmが確保され、室内長もフィット並みとなる。また、ラゲッジスペースは230リットル の大容量を誇り、ワンモーションで格納可能なリアシートによって容量を増やすこともできる。

 エクステリアはヴィッツと比べると“マジメさ”が漂うイメージだが、それはそれで存在感がある。ボディ四隅に配置されたタイヤとタンブル(絞り込み)の少なそうなボディ側面が、結果的にMPCをカタマリ感の強いクルマに仕立てている。

 トヨタは先ごろ、デザインの基本理念として「j‐ファクター」を掲げた。「世界価値に昇華した日本の独創」の意味が込められており、日本ならではの文化や感性、技などをデザインに託して世界に発信していくというのだ。これまで、欧米メーカーの見よう見マネで発展し、デザイン面では「 “らしさ”がない」と言われてきた日本車だが、いよいよ変わり始める時が来た。トヨタはMPCに、そんな思いも込めているのだろう。シンプルながらも熱い想いが感じられるのは、そのためだ。
ヴィッツよりちょっと小さい
トヨタ車内での相性はこれを略して「ちょヴィッツ」

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サイドビューを眺めると、ボディ四隅にタイヤが配されて高効率パッケージが生み出されているのがわかる。ボディ先端の位置が予測しやすいよう、ノーズはほぼ水平に設計される模様。 ボディ側面のタンブル(絞り込み)が抑えられることで、背高フォルムと相まってライバル車に引けを取らない居住性が確保される。デザイン検討の段階からコンビランプは縦長形状を模索。

 このMPC、開発陣の間では親しみを込めて「ちょヴィッツ」と呼ばれているらしい。もちろん、愛称のような “単にデザインとパッケージングをちょっと頑張っただけ”のクルマではなく、MPCの小さなボディには先進の安全・環境装備がギッシリと詰め込まれている。

 衝突安全面では、国内の自動車アセスメント(JNCAP)で最高位の6ツ星が獲得できるよう、衝突解析技術を得意とするトヨタがダイハツにアドバイスを与える形でボディの安全性を徹底的に追求。衝撃吸収ボディに加え、側面衝突時に乗員の頭部を守るカーテンエアバッグも搭載。さらに、クラス初となるニーエアバッグの設定も検討されているという。

 エンジンはダイハツ製の新開発直列3気筒がメインユニットとして載る。このほか、現行ストーリア/デュエットに搭載されている1.3リットル直4もラインナップ。また、輸出先によってはEJ‐VE型1リットルも設定されるようだ。排ガス性能では、国土交通省の「低排出ガス認定制度」がバージョンアップし、最高位が4ツ星(新長期規制値に対して75%低減)となった。これにともなってフィットなど、早くも改良で4ツ星認定を取得したクルマも発売されているが、MPCも主力モデルで4ツ星を獲得することは間違いない。

 排ガス性能とともに、コンパクトカーが激しく優劣を競っている燃費でもMPCはライバル車に負けていない。エンジン単体の駆動ロスが徹底的に減らされ、ヴィッツに搭載済みのアイシンAW製CVTはMPCにも搭載、10・15モード燃費で30km/リットル が目標とされている。価格の安い4速ATモデルでも24km/リットルが目標に掲げられているというからスゴイ。

 気になる価格は90万〜120万円程度になりそうだ。フィット(106万〜153万円)を軽々と抑え、コストパフォーマンスの高さでは群を抜く。これにトヨタの販売網が加われば、まさに“鬼に金棒”と言える。ただ、これだけの最新技術が詰め込まれたリッターカーでこの値段を実現するのはそう簡単ではない。そこでトヨタ・ダイハツ連合はコスト削減を加速させるため、国内の系列外部品メーカーだけでなく、韓国や中国からの部品調達も検討。価格のベンチマークは競合車となるコンパクトカーではなく、軽自動車だというから、コストダウンへの執念はすさまじい。トヨタ得意の「原価低減」がMPCの低価格に現れるかどうか、いまから楽しみだ。

 ちなみに、生産はダイハツ本社工場(大阪府池田市)が担当する模様。さらに、04年末からはマレーシアのプロドゥア社でも生産され、アジア各国で販売される。タはMPCに、そんな思いも込めているのだろう。シンプルながらも熱い想いが感じられるのは、そのためだ。
ダジャレといえば

01年11月号でヴィッツMCモデルの確定マスクをキャッチし、「“ちょびっつ”変わる」と記したスクープ記事。
本誌がヴィッツMCモデルを発表前に捕らえ、01年11月号でその小変更ぶりをスクープした際、記事タイトルに「“ちょびっつ”変わる」と書いた。もしかして、トヨタ社内でMPCを“ちょヴィッツ”と命名した開発陣は、本誌スクープ記事からヒントを得たのかな? だとしたら、ご愛読ありがとうございます!
デザイン審査を経て確定した後ろ姿には
縦長コンビランプ採用決定

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MPCの確定リアビュー。ハッチゲート開口部が狭くならないよう、コンビランプは縦長デザインに決まった。ターンシグナルはクリアレンズで覆われて質感の高さがアピールされる。

 話を外観デザインに戻そう。前ページに掲載したナマ写真はデザイン検討段階に発案されたものだが、スクープ班では周辺情報も合わせて確定デザインを再現した。

 ポイントのひとつ、リアドア開口部はスモールカーにしては格段に広い。おそらく、ドア開閉角度も90度近くに達し、子供を乗せたり、チャイルドシートを持ち込む時など、さまざまな使用シーンで重宝しそうだ。ハッチゲートもバンパー上から大きく開き、ベビーカーや大きな荷物がスムーズに出し入れできるよう、こちらも開口部が広く設計される。デザイン重視のヴィッツのようにリアコンビランプが開口部側に j侵食 fしてくることもなく、ほぼスクエアな開口部が確保される点にも注目したい。また、バンパー下部は台形に切り込まれ、リアビューでのアクセントも兼ねる。

 バックウインドウ下端は水平にデザインされ、全高の高さも手伝って十分な後方視界が得られそうだ。こうした工夫も運転のしやすさにつながる。なお、ガラスはハッチゲート外板パネルより奥まった位置に組み付けられ、若干の段差が設けられる。

 先に触れたように、「ちょヴィッツ」のリアコンビランプは兄貴分とは対照的な縦長設計となる。上からテール&ストップランプ、ターンシグナル、バックアップランプ、リフレクターが順に並ぶ。このうちターンシグナルとバックアップランプ部分だけがクリアレンズ化され、プックリと膨らんでいるのも特徴的だ。その上下はレッドの2重レンズで覆われて質感の高さを演出。ナンバープレートはハッチゲート中央に配置される可能性が高い。

 総じて、MPCはフロントからリアまで全体的にイヤミのないカタチに仕上がる。ライバル車に対抗してカラーバリエーションも豊富に用意されるだろう。

 運転のしやすい小ぶりなボディに広い室内、低燃費最近のスモールカーはこぞってこうした点をPRしているが、これまでに判明したデザインやスペック、そして驚異的な低価格を見る限り、MPCがスモールカー市場で旋風を巻き起こす可能性は高い。ちなみに、03年このクラスでもっとも売れたのは、ご存じフィットで18万2285台。以下、キューブ(13万9570台)、マーチ(12万3709台)、ist(10万3946台)、デミオ(8万8170台)、ヴィッツ(7万1117台)、コルト(6万2453台)、モビリオ(6万1334台)と続く。登録車販売ベスト20のうち、じつに8車種がコンパクトカーなのだ。総合順位でもフィットの2位を筆頭に、キューブからデミオまで4〜7位を占めるなど、コンパクトカーの快走は止まるところを知らない。しかし、こうした強力なライバル群に割って入るだけの実力は十分と見た。

 自動車業界的には、トヨタとダイハツの販売網をフル活用する利点も見逃せない。「ストーリア/デュエットがダメだったじゃないか」という意見もあるが、これはダイハツ車をトヨタがOEM(相手先ブランドによる生産)調達して販売しただけのこと。今回は名実ともに両社の共同開発車であり、ダイハツ側の意向も十分に採り入れられている。国内トップであるトヨタの強力な販売力については言うまでもないが、ダイハツも軽自動車で鍛えた業販(=業者販売)ルートを持つ。完成度の高いMPCのデキ映えに「軽需要までさらわれるのでは・・・」と、ライバル各社は戦々恐々。話題性たっぷりのMPCがデビューするのは04年5月の予定だ。




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MPCスクープを振り返る

スクープ班が初めてMPCの存在を突き止めたのは1年以上も前、03年1月号だった。第一報にして早くもストーリア後継車に位置づけられ、国産コンパクトカー最短の全長に収められること、1リットル直3エンジンが新開発ユニットに差し替えられる事実など、盛りだくさんの内容でお届けした。その後、同4月号では既存モデルを用いた先行開発車の姿を射止め、MPC開発にトヨタが参画していることも証明した。

MPC初スクープを掲載した03年1月号。ダイハツが主導権を握って開発している背景やスケジュールも報じた。

3カ月後の同4月号ではトヨタのテストコースに出現した先行開発車両を激写し、トヨタとダイハツの協業を証明。
●はみ出し情報 その1●
05年夏、国内でのレクサス・チャンネル設立と同時に発表される2代目アルテッツァは大型化によって車両重量が現行モデルよりも約150kg重くなる。動力性能を確保するためにエンジンは2.5リットル&3リットルV6に変更。
●はみ出し情報 その2●
デトロイトショーで先行発表された3代目アリスト(レクサスGS)には可変スタビライザーが備わる。カヤバ工業が手がけたパーツだ。国内発売は05年8月、レクサス店展開と同時だ。
●はみ出し情報 その3●
トヨタの乗用車向けディーゼルエンジンが現行のCD型からAZ型ベースのAD型に切り替わる。05年からポーランドでエンジンの生産が始まるため、これに合わせて新ユニットへの世代交代が行われるようだ。
●はみ出し情報 その4●
整備士試験問題漏洩に関して国交省からトヨタに対して何のペナルティもなかったため、社内では「新型車の型式認定の際に何か影響が出るのでは?」との警戒感が広がっている模様。


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