いまのところ、フォードのひとり勝ち
(自社ブースで馴染みの業界関係者などと親しげに話しをするムラーリー会長)
昨年のデトロイトショーでは、デトロイト3(GM[以下ゼネラルモーターズ]、フォード、クライスラー)はそろって販売不振もたたり経営が悪化し瀕死の状態であった。当時のブッシュ政権は政府援助に消極的で、冗談抜きでそろってレベルの違いこそあれ、「経営破たんも近い」との憶測が流れるなか開催された。デトロイトいずれのプレスカンファレンも、とにかく総力戦。コンセプトカーやニューモデルを数多くそろえ、各経営者は必死に存在感をアピールしていた。しかし結果は知ってのとおり、クライスラーはフィアットグループに買収され、GMは経営破たんして再生の道を歩んでいる。フォードはかろうじて生き残った程度と思われていたが、今年のデトロイトショーを見ているかぎり、北米市場に限ってみれば完全な「ひとり勝ち」状態なのが伝わってくる。
もちろんデトロイト3のなかでは、という限定的な話で世界トップクラスのトヨタに勝った負けたという話ではない。米国に住む知人に聞くと、「GMはつぶれた会社だから」と誰もが口にする。再生へ向けての経営破たんであったが、米国の消費者には完全にネガティブイメージが定着し、予算的事情(大幅値引きなど)やよほどの思い入れがないかぎり、GM車を買う意味がないとも語る。フィアットに買収されたクライスラーはすでに論外扱いになっていた。
そんななかで開催された今回のデトロイトショーでフォードの経営陣の存在感はひときわ目立った。CEOのアラン・ムラーリーや、ビル・フォード会長などは、いつもならプレスデー初日のフォードブランドのカンファレンスのみスピーチし、二日目のリンカーンブランドのカンファレンスは北米市場担当のマーク・フィールズ副社長に任せ切り状態であった。しかし、今回は初日のフォードカンファレンス後も、自社ブースにほぼ終日張り付き、夕方に再度カンファレンスをした。さらにリンカーンのカンファレンスにもムラーリーCEOとビル・フォード会長も参加。ムラーリーCEOは自社ブースで関係者と語り合っていた。
一方GMはブランド別に二日間のプレスデーで3回のプレスカンファレンスを開催。現在会長兼CEOとなっている、エド・ウイッテーカー氏は出席はするもののスピーチはなし。ただし各カンファレンス最後のほうでは、メディア関係者の囲み取材には応じていた。クライスラーにいたってはカンファレンスはなし。地元紙には「ブースが見当たらないし、経営者も見当たらない」的な皮肉たっぷりの見出しがつけられていた。
GMやクライスラーともに、とかくネガティブな話題が多く、広くメディアの前へ出て語りたくない気持ちはわかる。しかしいつも以上に経営トップが語り、そして存在感を強調してきらフォードに対し、報道を目の当たりにした米国消費者は「誰が勝者で誰が敗者」かがはっきりわかったことであろう。
ショーでの話題提供のみならず、地元ミシガン州への雇用提供まで発表したりと、とにかくフォード一色のショーであったのが印象的であった。